【舞踊団公演】タラント・涙に濡れるマントン

(03)舞踊団公演

カルタヘネーラから、途中で曲はタラントに変わっていきます。

そして、名目上は女中頭ということにしている、
伝右衛門の内縁の妻・サキが登場します。

サキは実在したようですが、
実際には、多くいた伝右衛門の女の中の一人だったようです。
ただ、舞台というのは、何も史実通りでなくてもいい。
ちょっと脚色して、
サキはを『大勢いる伝右衛門の女の中でも特別な人』としました。

カルタヘネーラのところでも書いたように、
サキは、これって何かある人ではありません。
普通の人です。
普通の平民に生まれ、
普通に男性を好きになり、
普通に働き、
普通の人たちに囲まれ、
普通の毎日を送る、
普通の人です。

普通の人というのは、働かないと食っていけません。

水仕事をすれば手も荒れます。
働く為には、動きやすい恰好をします。
一張羅を着て日々を過ごすなんてことはありません。

いつでも綺麗でいるなんて、難しいことです。

サキは白蓮を見て思います。

「何もせず、ただそこに座ってるだけで人々がかしずく存在。
綺麗な恰好して、伝右衛門の隣に立ってるだけで価値のある存在。

なんて恵まれた人なんだろう」

伝右衛門には、サキへの愛はありましたが、
伝右衛門は野心家だったので、
自分の出世に役に立つ女との結婚を望んでいました。

サキのように、身の回りを細々と世話してくれる女も
役には立ちますが、結婚する必要はありません。
金は余ってるのだから、ただ、囲っておけばいい。

サキにとっては、白蓮と伝右衛門の間に愛がなかったとしても、
白蓮は、数多いる伝右衛門の女の中で
たった一人の『妻』という特別な存在でした。

サキが喉から手が出る程欲しかったものを、
それを望まない白蓮は、いとも簡単に手に入れました。

「私には、伝右衛門に仕えることでしか生きていく道はない。
この家の中のことを取り仕切り、内助の功を発揮するしかない」

サキはそう思って、
伝右衛門の家に女中頭として居続けることにしました。

でも、白蓮はその立場さえ取り上げようとします。

「家の中を取り仕切る女主人は私です」
と白蓮は主張します。

「女中ふぜいは、下がってなさい。
あなたのやってることは、私の役割です」
とサキに身を引くように言います。

でも、サキは譲れません。
それを譲ったら、サキには何も残らないからです。

「何もかも持っているのに、
何も持たない私の最後の砦を奪わないで」
とサキは抵抗します。

そして、白蓮とサキの女の闘いが家の中で繰り広げられます。

言うことを聞かないサキに対し、白蓮は暇を出します。
要は、家から追い出します。

白蓮と結婚するからには、全ての女と手を切るという約束だったので、
伝右衛門は、白蓮に逆らえず、サキが家を出て行くのを黙認しました。


サキは家を出る際、伝右衛門に取り上げられ、
白蓮に渡ったサキの大事なマントンを見つけます。
白蓮にとって、そのマントンはどうでもいいものだったので、
放ったらかしにされていました。

サキは、そのマントンを肩に掛け、
長く住み慣れた伝右衛門の家を泣きながら後にしたのでした。

サキ役(夜の部)の富松真佑子

サキ役(昼の部)の冨田英子

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